そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
「ほら来たわよ、早く乗ってよっ」
「は、はい」

 言われるままにエレベーターに乗り込むと、一番奥まで進む。

 黒いエナメルのハイヒールをカタカタとさせている彼女を見る限り、かなりご立腹だけれど、原因は私?
 さっきも『どうしてあなたなのかしらねっ!』などと意味不明の言葉を発していた。
 彼女とは面識もないし、当然話をしたことも無い。なのに何故私に怒っているのわからない。
 
 理由を聞きたいけれど、こわくて言い出すことも出来ない。 
 ただ、エレベーターの壁に張り付くのみ。

 AKUZUコンサルティング&Co.はべリが丘ビジネスパークの一角に自社ビルを保有している。ビルが建ったのは六年前。今もピカピカだ。
 高速エレベーターはあっと言う間に最上階の五十八階へ到着してしまった。
 
 無言で先に降りた彼女の後に続いてエレベーターを降りると、そこには東京の景色が広がった。

「すごい」

 思わず口ずさんてしまった私を間宮さんはジロりと睨みつけて来る。

「すいません、つい…」

 両手で口をふさぐ。
 
 今だスカイツリーに昇ったことはなく、東京タワーは上京して間もない頃に母と一度昇ったきりだ。

 独り暮らしをするアパートは二階建て。下町だから同じような建物がひしめき合い、お世辞にも景色がいいとは言えない。それが不満だとは言わない。好きで学生の頃からもう約九年住んでいる。
 
 間宮さんからしたら、慣れた景色なのだろうけど。私からしたら久しぶりに見る絶景にちょっと、興奮してしまっただけなのに。

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