そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
「吉永さん、今日はもう帰っていいわよ」

 飯倉さんにそう言われたのは夜八時を少し過ぎたところだった。

「えっ、でも角紅商事の契約書が…」
「ああそれ、ちょっとやっかいなのよ。あまり一般的には使わないシステムの契約でしょ。だから内容にもかなりの専門性が求められるし、顧問弁護士の原田先生にも相談しようと思ってるの。不備があったらお互い嫌な気持ちになるし、下手したら裁判沙汰なんてこともあり得るから慎重に進めるつもり」
「確かにそうですね」
「このところ残業続きだったから、たまには早く帰りなさい」

 飯倉さんはすぐにパソコンのキーボードをカタカタと打ち出した。

 そう言う飯倉さんだっていつも遅くまで残っているのに。

「お手伝いすることありますか?飯倉さんだって毎日遅いですよね」
「う~ん、そうなの。だけど、今回はちょっとあなたには無理かな」

 そうだ。と彼女は小声で付け加える。

「この前のお見合い、ダメだったわ。お医者さんだったんだけど、時間が合わなそうだったし、お互い仕事を大事にしたいからって」
「お医者様なら、仕事辞めても良くないですか?」

 私ならそうする。

「この仕事好きなのよね。せっかく法学部卒業したから」
 
 ちなみに私も法学部なんですけど。
 飯倉さんとは大学のレベルが違いすぎますけど。

「すみません、お先に帰ります」
 
 他に残っている人たちにも声をかける。

「お疲れ~」

 と、返ってくる。

「部長、ありがとうございます。お先です」
「はーい、気をつけてね」

 彼女は相変わらずパソコンから目を離さない。
 私がもっと仕事がこなせたら、飯倉さんの負担が減るのに。

 申し訳なさ一杯でエレベーターを降り、エントランスを出た時だった。

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