そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 戸惑う私を乗せた車はすぐにべリが丘グランドホテルに着いてしまった。

 阿久津社長は先に降りて私の扉を開けてくれる。
 男性にこんなことされたのは当然初めてだったから、まるで機械仕掛けの人形のようにぎこちない動作で車を降りた。

「高津さん、ありがとう。今日は帰って下さい」
「はい、ではこれで」

 高津さんを見送ると今度は、ホテルの人が声を掛けてくる。

「阿久津様、お待ちしておりました。どうぞ──」
「支配人、今日はお世話になります」

 ホテルの支配人に案内されたのは、最上階のダイニングバー。

 窓際の一番奥まった席に私たちは案内された。
 東京湾を挟んで、対岸の房総半島の灯りがチラチラと見える。

「苦手な食べ物はある?」

 阿久津社長に問われて、私は無言で首を振る。
 緊張して声が出ないのだ。
 こんな高級なお店に来たのは初めてだし、店内を見れば周りの人たちはみなドレスアップしているのに、今日の私はジーンズに白のブラウス。
 場違いもはなはだしい。

「じゃあ適当に頼んでいいね」

 テキパキと彼は料理とお酒を選ぶと、私に向き直った。

「肩に力が入っているようだけど?緊張してる?」

 そりゃそうでしょ。
 庶民がこんな場所でお食事なんて、ホテルでお食事なんて、友人の結婚式の二次会くらい。だけど、ここまで高級ではなかったかも。
 まして阿久津社長と二人きりなんて…。
 

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