そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 するとホテルの支配人が再び現れて。

「阿久津様、お食事のご用意が整いました」
「ありがとう」

 支配人が頭を下げて立ち去ると。

「行こうか」

 彼が立ち上がる。

「い、行くってどこへですか?」

 ここでお食事をするわけではないの?

 伸ばされた大きな手。

「さあ」

 これって、手を取れってこと…でいいんだよね?
 
 恐る恐る手を伸ばすと、ギュッと握られてしまった。

 彼に手を引かれてラウンジバーを出ようとした時だった。

「まぁ、阿久津様?」

 年配の富よかなご婦人に声を掛けられたのだった。

「これは、近藤社長の奥様」

 私の手を握ったまま、彼はスマートに頭を下げた。

「随分珍しい女性とご一緒ですのね」

 随分珍しい?って当然私のことだよね。珍獣にでも見えるのかしら?
 それとも、いつも一緒の女性と違うってこと?
 
 近藤夫人に上から下まで、じろじろと露骨にねめつけられた。

 やっぱり場違いな服装が”珍しい”の理由らしい。
 場違いな服装であることは自分でも認めているのだけれど、改めて態度で示されるとへこむ。
 
 …ですよね。だって近藤さんは明らかに高そうなワンピースを着ているし、バッグだってハイブランドのそれとわかる物。
 笑顔で口元にあてた指には、たくさんの宝石が付いた指輪。

 どうやら社長に恥をかかせてしまったみたいだ。

 離れないと。そう思ってそっとつないだ手を離そうとしたら、逆にもっと強く握られてしまった。

 
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