そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 エレベーターホールには私たちだけだった。

「さっきはごめんね。驚いたよね?」

 阿久津社長は再び私の手を優しく取る。

 私はと言えば緊張感から解放されて、今なら何をされても応じてしまう程、脱力感が半端無かった。

「まさか、近藤さんがいるとは思わなかった。怒った?」

 いや、そんな怒るとか筋違いだし。
 でも、言葉を口にする元気がまだなくて。

「これからは、ああいった人達と会う機会も増えると思う。今日は公式ではないし、いい練習だと思って許してくれるかな?」
「こ、これからって──」

 チン。エレベーターが到着を知らせた。

 彼はボタンを押す。

「あの、阿久津社長。彼女(仮)にこれからがあるんですか?」
「もちろん」

 笑顔で言われて、目の前が真っ暗になった。
 セレブが集まるパーティーやらに出席するの?
 そんなの契約違反……だと思うんですけど。
 
「無理ですっ」
「すぐに慣れるから」

 そんなわけないっ。礼儀作法なんて一朝一夕で身につくものじゃないからっ。

「君を守るから、心配しないで」

 そんな恋人に言うセリフを、真顔で言わないで下さい。

「社長、私はあなたの正式な彼女じゃありません。だからそんな上手な演技は止めてください」

 ドキドキしちゃいますし。

「はは、そうだったね。うっかり忘れてた」
「だから、誰もいないのに手なんてつなぐ必要ないですっ」

 さっと私は彼から手を離す。

「ああ、そうか」

 それに、さっきの近藤さんとの会話だって…。
 結婚するとか言っちゃうし。

「ちょっと言い過ぎたかな?」
「はいっ」
「ごめんごめん」

 社長は笑ったけれど、こっちはいい迷惑。
 だって…。
 阿久津社長の演技が真に迫っていて、あの時ドキってしてしまったんだもの。

 お願いもうこれ以上、勘違いさせないで…。
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