そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 エレベーターを降りて彼について行った部屋は──。

「すごい……」

 窓いっぱいに広がった夜景と星空。

「この部屋は東京湾の中心に位置しているから、千葉と神奈川どちらの夜景も楽しめるんだ」
「綺麗」

 こうして比べて見ると神奈川の方が灯りが多いみたい。

「多分、横須賀とか三浦半島じゃなかな。横須賀には軍艦も停泊するから明るいのかもね。あっちは海ほたる」

 指さす方には海に浮かんだ島のようなものが。

 って、どうして窓に張り付いた私に、背中から覆いかぶさるんですか?
 こんなこと本当のカップルしかしないのに。
 だからこんなにドキドキしてます。

「あの、近いです」
「でも今は恋人同士だから」
「さっきも言いましたけど、誰もいないときは演技しなくていいと思います」
「常に練習しておかないと、いざって時に出来ないだろう?」

 それはそうかもしれないけれど。
 でも、いざって時だってこんなことしないと思う。

「これも練習」

 練習にしてはオーバーな気もするけれど、社長にそうされるのはドキドキするけれど嫌じゃなかった。
 男の人の腕の中って、温かくて心地いいことをこの時、初めて知った。
 けれど──。
 
「…はあ」

 そっけなく振舞うつもりだったけれど、無理みたい。

 さっきから息が苦しい。
 完全に阿久津社長のペースに引き込まれているみたい。
 むしろ、こんなことをされて、彼を好きにならない女性がいる?

 …顔赤くなってないかな?

 窓ガラスに映る顔を見ても良く分からない。

「…あの」
「うん?」
「社長は平気なんですか?」
「何が?」
「何がって、好きでもない女にこんなことすることです。手をつないだり、体を近づけたり」
「…そうだね?」

 それっきり彼は黙ってしまった。
 やっぱり不快なのかも。それなのに、無理して演技してるわけ?

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