そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
「美里は嫌かな?俺にこうされるの嫌?」

 耳元で囁かないで下さい。
 さっきにも増して呼吸が苦しくなります。

 冷静さを取り戻すように、私は大きく息を吐いた。

 だって、(仮)なんですよ。
 いずれ別れが来るんです。
 だから、好きになっちゃいけない。
 過剰な演技はちょっと…誤解しちゃうと言うか。

「嫌とかの問題ではなくて、練習だとしても、そこまでする必要はないかと」
「…食事にしようか。せっかくの料理が冷めてしまう」

 ぷいっと阿久津社長は私から離れた。

 もしかして怒った?
 でも私、間違ったこと言ってない。

「美里、こっちへおいで」

 振り向くと、彼は隣のリビングのソファーに座っていた。

 どうやらここはスイートルームみたい。
 広さが半端ないし、ダイニングもある。
 奥のドアはベッドルーム?
 さすがに誘われることはないよね。

 やだっ。私ったら。

「早くおいで」

 不覚にも、社長の言葉で正気に戻るなんて最低。

 テーブルの上にはたくさんの料理が並べられている。 
 どれも色とりどり。美味しそうだ。
 このところ、ちゃんと食事取ってなかったから…。
 
 って違う、違う。食べ物につられちゃだめ。
 阿久津社長にもちゃんと認識してもらわないと。これがお芝居だってこと。
 私が(仮)だってこと。

「さあ、座って」

 だけど、ルームサービスを頼んでくれるとは思わなかった。それも私に気を使ってくれたんですか?
 VIPが集う空間に場慣れしていない、私のために?
 
 聞いたら、「別に」と言われるのが怖くて聞けなかった。
 
「もう一度、乾杯しよう」

 シャンパングラスに淡いピンクの液体を注ぐ。
 ラベルにはフランチャコルタ ロゼ マグナムと書かれていた。

 たしかこれ二万円近いお酒だったはず。

「はい」
 
 言われるままに差し出されたグラスを受け取ると。

「君の瞳に乾杯」

 チーンと澄んだ音が室内に響いた。

 
< 41 / 147 >

この作品をシェア

pagetop