そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
「毛先がだいぶ痛んでるわね。いくら社内業務だからとは言え、少しくらい気を使ったほうがいいわ」

 美容院は二か月に一度の私。

「綺麗にしたからと言って、仕事の効率が上がるわけではないけれど」
「気持ちの問題ってありますよね」

 楓だ。

「いつも言ってるんです。綺麗にしろって。お化粧だって適当だし」
「分かってるんですけど、その…」
「生活に一杯一杯だって言いたいのよね、美里」
「…うん」

 今は違うけれど、ついこの前まではそうだった。

「この子一人暮らしじゃないですか。だから家賃とか大変なんです。時々私の要らなくなった口紅とかあげてるんです」

 飯倉さんは驚いたようだったけれど。

「髪は綺麗な方が絶対いいと思うの。私の行っている美容院紹介するわ」

 いや、それはちょっと。
 絶対高いに決まっているもの。
 
「べリが丘グランドホテルの中にある美容院なんだけど──」

 ほらやっぱり。

「ご厚意は嬉しいのですが、大丈夫です」

 私は大袈裟に顔の前で両手を振った。

「それにホテルに着ていく服もないですから」

 べリが丘グランドホテルがどんな所かは、先日行って知っている。
 おいそれと庶民が足を踏み入れるところではない。
 普段着でなんて入れないし、それに見合う服を私は持っていないのだから。

「大丈夫よ。お店は路面だから気にしなくても平気なの」

 服は良くても、料金が。

「これは業務命令よっ!行って来なさいっ!」

 それって、パワハラでは。などと思うのですが、他ならぬ飯倉さんの命令。
 渋々頷いたのだった。

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