そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 プルプルと腕が振るえる。
 と言うより、怒りが込み上げてくる。

「お二人とも最低ですね」

 勝利の喜びから胸の前で手を叩く間宮さんと、ソファーに座ったままの阿久津社長は驚いたように私に視線を向けてきた。
 
 このまま「お疲れさまでしたぁ」と引き下がると思った?
 馬鹿にするにも程がある。

「社員を賭けの道具にして何が楽しいんですか?それで、今日は負けた方がディナーをごちそうするとかあるんですかっ?」

 膝に置いていた両手を、ぎゅっと握りしめた。

 確かに私は間宮さんみたいに派手な美人じゃない。社長みたいなタイプに相手にされる人間じゃない。
 そんなの分かってる。
 だけどあんまりだと思う。
 そんな地味で男にモテない人間を賭けのだしにするなんて。
 
 地味だけど、地味なりに精一杯生きているんだわ。
 慎ましく、世間様にご迷惑をかけないように、ひっそりと生きてるんだわっ。
 パリピみたいな人達からしたら、しょうもなく見えるんでしょうけどねっ!
 
「地味な人間をからかって楽しいですかっ」

 悔しくて悲しくて涙が溢れてくる。

「ごめんなさいね、吉永さん」

 間宮さんが肩に手を掛けて来たけれど、私はその手を払った。

「失礼します」

 私は社長室を飛び出したのだった。
 
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