そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
 涼介さん、どんな反応するかな。

 はやる気持ちを抑えて家路を急ぐ。
 べリが丘グランドホテルからツインタワーの住居棟までは、のんびり歩いても二十分とかからない。
 
 陽はもう少しで海に落ちようとしていた。

 ショーウインドウに自分の姿が映った。思わず足を止める。

「本当にこれが、私」

 芋虫が蝶になるように、古い皮を脱ぎ捨てたよう。
 あは、ちょっと言い過ぎかな。
 自嘲気味に笑いがこぼれる。

「お嬢さま」
 
 え!?
 声の主は分かってる。

 ショーウインドウの前で自惚れてる姿見られた?
 とたんに恥ずかしくなった。

「りょ、涼介さん、ど、どうしてここに?」
「君を待ってた」
「私を?」
「そろそろ終わるころかなと思って」 
「まさか、見てました?」
「見てたって何を?」
 
 良かった。見てなかったみたい。
 ほっと胸を撫でおろしたのだけれど。

「ウィンドウに映る自分の姿に見惚れていたとか?」

 ぎゃーーーーーっ。

「意地悪っ!」

 両手で思いっきり彼の胸を叩いた。

「ごめん、ごめん冗談だって」
「嘘っ。私のこと笑ってるんでしょっ!」
「違うって」

 違わないっ。
 涼介さんはイケメンでいつも注目の的だから分からないんだっ。
 いつも素敵だから、生まれ変わった自分を見たことがないんだっ。

「そんなに怒るなって」

 私の手首を掴むと、彼の唇が私の唇の端に軽く触れた。

「落ち着くおまじない」

 ……おまじないは効いたみたい。
 
 あ、でも人前で…。

「人はいないから大丈夫。誰も見てないよ」
「そんなとこにも注意が行っていたんですか!?」
「もちろん」


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