そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~
「綺麗になったね、美里」

 彼の笑顔は私のすべてを溶かす。

「あ、あ、ありがとうございます」
「食事にはまだ早いから、港の方を散歩しようか」

 いつものように彼に手を引かれて歩き出す。

 潮の香りが心地よかった。
 遠くには東京湾を航行する船の灯りが見える。

「美容院行って良かったね」
「えへへ、生まれ変わった気がします」
 
 とても不思議なのだけれど、髪型と髪色を変えただけでこんなにも自分が変わるなんて思ってなかった。

「きっと、美容師さんが上手だったんだと思います」
「そうだね。その人は美里の魅力を引き出すのが上手かったんだね」

 私の魅力?

「美里は宝石の原石みたいなもんだと思うよ。磨き方ひとつで色んな輝きを放つ」
「私、そこまですごい人間じゃないです」
「そんなことないよ。人は気づかないだけで、内にはたくさんの輝きを持っているんだ。その磨き方が分からないだけなんだ」

 涼介さんはその磨き方を自分で知っていたんですね。

 だから、こんなに素敵なんだ。
 私も自分の磨き方を知れば、もっと成長できるだろうし、素敵な女性になれるかな。

「その美容師さんは、磨き方を知っていて美里を輝かせた。ちょっと嫉妬するね。俺も美里を輝かせる男になりたい」

 涼介さん?
 彼の瞳は遠くを見つめている。
 
 遠くには灯台が見える。

「そして、あの灯台のように美里を導きたい。って、ちょっとキザだね」

 涼介さん…?

「俺は前から君のことを彼女(仮)だとは思っていない。君は違うと思うけど」

 彼は私をちゃんと見据えてくれている。

「きちんと言わなかった俺が悪いんだ。ごめん。俺の彼女として、一緒に生活してくれる?」
「そ、それは…」
「嫌とは言わせない」

 彼の腕が伸び、ぐっと引き寄せられる。

「キスしていい?」
「……」 
 
 答えは分かっているはずです。
 
 今日は波の音がしない。
 きっと今日の海は穏やかだからだ。 

 潮風の中でのキスはちょっぴりしょっぱくて、甘かった。
 

 
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