情愛漂う財閥社長は、一途に不遇女子を寵愛する。


「……これ、もしかして私、八尋さんと婚約者同士だったってことですか?」

「まぁ、そうだね。知ってるのは、僕と八尋だけなんだけどね」

「あの、失礼なんですけど……聞いてもいいですか?」

「ん? どうしたんだい?」

「私、お母様とよく、青の屋根の大きなお家に連れて行ってもらってた記憶があって八尋さんのお父様はもしかしてお髭が似合っていたかっこいいおじ様でしょうか?」


 私は失礼だと承知で問いかけると、彼は「ハハハっ、懐かしいね」と笑いながら言う。


「そうだよ。青の屋根の大きな家は藤沢の本家だ。それに、お髭が似合っていたか自分ではわからないがお髭はあった。かっこいいなんて言ってもらえるなんて光栄だよ……ところで八尋のことは覚えてないのかい?」

「おじ様の近くに、男の子がいたなってくらいでそれが八尋さんだとは思いませんでした……すみません」


 私がそう言えば、隣に座る八尋さんは少しショックを受けてしまっていたみたいで小さくため息をついていた。


「……それは、わかってたから。謝らないで」

「あっ、はい」


 再び書類に目を向けて二枚目三枚目を見ると、お母様が見せてくれた次期当主だという証明書にあの土地の権利書などがあった。


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