情愛漂う財閥社長は、一途に不遇女子を寵愛する。
「俺は、ただの“財閥家の御曹司”“社長の息子”“藤沢の後継者”という肩書きだけの若造が迎えに行ったとこで助けることもできないし頼りにはできないと言われた。当時、俺は大学卒業して父の補佐をしていただけでね。父の功績に乗っかった役職もないのに後継者だからとチヤホヤされて天狗になって、だから迎えに行けるって思ってしまった。あの時の俺は冷静になって考えたら、“社長補佐”という肩書きが増えただけだったんだ。だから、俺は、一度会社を退職して平社員になり一から就職した」
「えっ」
「名前も変えてね……だからここまで来るのに時間かかってしまった。本当にごめんなさい」
八尋さんは頭を下げ、謝る。そして問いかけた。
酒井家を取り戻す気はあるか、――と。