情愛漂う財閥社長は、一途に不遇女子を寵愛する。
料理長は、父より年上で私の味方の一人。彼はここに勤めて長いし母を妹のように思っていたらしい。だから私のことも気にかけてくださっている。
「そうですか……」
「料理長、様を付けるのはやめてちょうだい。彼らに聞かれたらあなたが酷い目に遭うわ」
「私にとっては、優美さまのお子であられる優菜様こそ仕えるべき人。私が働く理由はあなたが当主になる日まで頑張らなくてはと思っておりますので」
母を慕い、私を嫡女だと思ってくれている人はたくさんいることは知っている。だけど、私は正当な後継ぎとして扱われていないし父が跡を継がせたいのは私ではなく義妹の愛湖だ。
直系の子として血を引き継いでいるのは私でも、可能性はほとんどゼロに近いのだ。
「……ありがとう、料理長。ふふ、あなたがそう言ってくださるだけで力が湧くわ」
「優菜さま、一つ聞いてもよろしくですか?」
「うん、どうぞ」
「袖から見える赤い跡はどうなされたのですか?」
あ、あぁ……これね。
今回は見えるとこにやられちゃったからな、バレるよね。