情愛漂う財閥社長は、一途に不遇女子を寵愛する。
「そんな赤いドレス……デザインもダサいし!」
「……ぇ」
何言ってんだ、この子は……藤沢家が用意したドレスをデザインがダサいと言い放つなんて。
それも八尋さんが私のためにデザインした世界に一つかしかない、素敵なドレスなのに。
「愛湖、何てことを……っ」
「何!? 私に口答えする気!? 本当のことよ! それに、その場所は私の場所なんだから早く退いて! 可愛くもないあんたには相応しく――」
この子はなんてことを言ってるの……収集するにはどうすればいいのかわからずにいると隣にいた彼がその言葉を遮る。
「……その下品な言葉で私の最愛の妻を侮辱するのはやめていただきたい。酒井愛湖」
「……っ……」
八尋さんはいつもの優しい表情は消え去り怒りで無表情で聞いたことのない低い声で愛湖に向かって言い放つ。
「勘違いをしているようだが、私の隣には優菜しか立つことは出来ない。優菜は、酒井家前当主とうちの父が決めた許婚。それに元より一般人の君には資格はない」
「そ、そんなこと! あたしは、お父様の娘よ。優菜とは違って愛されてるもの! 酒井家を継ぐことはできる! だって、この可愛いドレスもパパが買ってくれたんだから!」
「何も知らないんだな、君は。君の父、酒井尚之は今は没落している旧名家の三男。酒井家に婿入りした立場の人間であり、当主になることは出来ない」
「そんなはずはないっ! パパは偉い人って、ママも言っていたもん! 私が酒蔵を継ぐ人なんだよって」
父と継母どちらかが言ったのかどっちでもいいけど、まさか誰もが聞いている場所で両親をパパママ発言をしてしまうのも驚きだが、何も知らなかったなんて……まぁ、何も知らなくていいって言ってたんだろうけど。