情愛漂う財閥社長は、一途に不遇女子を寵愛する。



「……何のことだかさっぱりわからんな」


 私が、彼らの立場を告げた上でこれまで彼らがして来たことの罪などを言えば父は心当たりがあるのか焦っている表情を見せ始め諦めの表情を見せた。
 だが、愛湖たちはまだ余地があるのだと思ったのか何故か縋るようにいつも父に強請る時の表情をして私を見つめた。


「優菜っ! ごめんなさい、私たち知らなかったの!」
「そうよ、優菜。今まで辛く当たってごめんなさい」


 二人一緒に謝ってはきたが、私は許す気もない。

 だって数年の間、私は彼女らに苦しませられた。自らのせいで辞めていってしまう使用人にも、申し訳なくて彼らの人生を壊したんじゃないかという思いも抱いたこともある。


「私は、許すことはできません。お父様のこともお継母様のことも愛湖のことも。お父様は、お母様の最期まで来なかった。それに、当主代理を任されたはずなのにその仕事も全くせずに執事に丸投げ。お継母さまには、最初から最後まで嫌悪感しかありません。ただそれだけです。愛湖は無知すぎます。何も知らない、調べようともしない。だけど、これは何も正しいことを伝えていなかったお父様とお継母様が悪い。それに蔵人を労うことは全くしなかった。母を見ていたら、できるはずなのに……っ」

「そ、そんな私たちにあんな酒蔵にわざわざ足を運べっていうわけ?」

「当然です。愛湖が不自由なく過ごせてるのは酒蔵で蔵人たちが働いてくださっているからよ」




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