もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「良いですか、殿下? 婚約者のことは思いっ切り褒めてください。愛する女性のことは褒めて褒めて褒めまくる。これが、紳士の心得というものです」
「分かった。だが、褒めるとは……どのように……?」
「それは思っていることを素直に口にするだけで良いのです! ――殿下は、リグリーア伯爵令嬢の見目をどう思いますか?」
「美しいと思うが」
「はい! それをそのまま口にするだけで良いのです! これからは令嬢に対して思ったことをどんどん言いましょう」
――と、いう具合だ。
侯爵は主から「皇后を倒すという目的を達成するための期間限定の仮の婚約」だと聞いているが、それだけで終わらせたくなかった。まだ付き合いは浅いが、キアラは皇太子妃に相応しい令嬢だと感じたのだ。
「そのドレスもとても良く似合っている」
「ありがとうございます。殿下の見立てが素晴らしいのですわ」
「いや、君だからこそ着こなせるのだ」
「っ……!?」
キアラは皇太子の直接的過ぎる言葉に参っていた。
(ほだされては駄目よ、キアラ! 私たちはお金で結ばれた関係なんだから!)
必死で己に言い聞かせるが、惚れ惚れするほどに美しい殿方の甘い言葉は、凄まじい破壊力を持っていた。
さっきからずっとこんな調子だった。レオナルドが褒めて、キアラが赤面して、後ろを歩くアルヴィーノ侯爵とジュリアがニヤニヤしながら二人の様子を楽しむ。
……なんというか、とても平和だった。