もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜





 謁見の間を前にして、キアラはふと足を止めた。皇帝相手に時間の遅延は絶対に許されないのに、どうしても足が進まない。

「やはり君も気付いたか」と、レオナルドが小声で言う。

 キアラは合わせるように小さく頷いて、

「えぇ……。このマナの気配は……」

「あぁ。魔女のマナだ」

 皇帝を守る特別に重厚な扉なはずのに、禍々しいマナは煙のように中からゆらゆらと溢れ出ている。魚が腐ったような生臭さに、思わず顔を顰めた。

 ふと気になって振り返ると、侯爵もジュリアも足を止めた二人を不思議そうに見つめていただけだった。

「あれは私以外に誰も気付いていない。あんなに気味の悪いものなのにな」

 どうやら、高度なマナを宿す人間にしか感じないらしい。

「これは……ブティックの時と同じく、人工的に作られたものですわね」

「おそらくな。――君のマナのほうは皇后に気付かれないと思うが……これを」

 レオナルドはポケットからキラリと輝く物を出して、

「マナを抑える魔道具の指輪だ。この日に間に合って良かったよ。今後、公の場に出る際は必ず身につけるように」

 キアラの左手をゆっくりと持ち上げた。
 そして、ダイヤモンドのように七色に光る魔石の指輪を、彼女の左薬指にそっとはめた。
 後ろからジュリアのきゃっと言う悲鳴が上がって、アルヴィーノ侯爵も短く口笛を吹いた。

「っ……! あ、ありがとうございます……」

 だがそんな冷やかしはキアラの耳には届かず、ただ羞恥心で顔を真っ赤にさせる。

 思えば過去の六回の人生で、ダミアーノからはこのようなロマンチックなことをされたことは、一度たりともなかった。なので、殿方に免疫のないキアラには刺激が強かった。
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