もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
(なにを恥ずかしがっているのよ……。ただの仮の婚約なのに……)
レオナルドとは互いの利害のみで結びついている軽薄な関係だ。それに、この指輪は魔女のマナが周囲に露呈しないための魔道具だ。特別な意味はない。
……と、彼女はまたもや自身に強く言い聞かせる。
一方、少し鈍感なレオナルドは、
「似合うな」
満足そうにふっと微笑んだ。
この指輪は魔道具ではあるが、キアラの美しさに相応しいデザインを考えて作らせたものだ。
彼女の黒い髪と赤い瞳に合わせたものだったが、今の姿でも十分に似合う。
褒めても褒めても、彼女の美しさに己の気持ちは追い付かないくらいだった。
「殿下、そろそろ」
アルヴィーノ侯爵の呼びかけで、和んでいた空気が一瞬で引き締まる。
扉の向こうには皇帝アントーニオと――レオナルドの宿敵である皇后ヴィットリーア。
キアラも自然と背筋が伸びた。
「さぁ、行こうか」
レオナルドはキアラの手を取る。
キアラは彼に手を預ける。
そして、おもむろに扉が開く。