もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

(なにを恥ずかしがっているのよ……。ただの仮の婚約なのに……)

 レオナルドとは互いの利害のみで結びついている軽薄な関係だ。それに、この指輪は魔女のマナが周囲に露呈しないための魔道具だ。特別な意味はない。
 ……と、彼女はまたもや自身に強く言い聞かせる。

 一方、少し鈍感なレオナルドは、

「似合うな」

 満足そうにふっと微笑んだ。

 この指輪は魔道具ではあるが、キアラの美しさに相応しいデザインを考えて作らせたものだ。
 彼女の黒い髪と赤い瞳に合わせたものだったが、今の姿でも十分に似合う。

 褒めても褒めても、彼女の美しさに己の気持ちは追い付かないくらいだった。



「殿下、そろそろ」

 アルヴィーノ侯爵の呼びかけで、和んでいた空気が一瞬で引き締まる。
 扉の向こうには皇帝アントーニオと――レオナルドの宿敵である皇后ヴィットリーア。

 キアラも自然と背筋が伸びた。

「さぁ、行こうか」

 レオナルドはキアラの手を取る。
 キアラは彼に手を預ける。

 そして、おもむろに扉が開く。

< 105 / 221 >

この作品をシェア

pagetop