もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

21 皇后ヴィットリーア

 扉の中に入ると、まがい物の魔女のマナの気配が一層強くなって、キアラは思わず顔を顰めた。
 隣を立つレオナルドは表情には出さないものの、微かに顔を強張らせている。

 そのマナは皇后から発せられていて、彼女の全身から黒い煙のような禍々しいオーラがゆらゆらと湧き出ていた。それに気付いているのは、魔力の高いキアラとレオナルドのみだ。


「そなたが噂の伯爵令嬢か。見るからに尻軽そうだな」

 形式的な挨拶が終わると、皇后が皇帝よりも早く口火を切った。
 彼女は彫刻のように端正な顔立ちで、雪のように白い肌に血のような真紅の髪。意思の強そうな、深緑の切れ長の瞳が酷く印象的だった。
 第二皇子の母親だが、とても成人した息子がいるような年齢には見えなかった。

(異様だわ……)

 キアラが感じた初対面の印象は、違和感と不穏だった。皇后は誰が見ても美しいと答えるだろうが、どこか人工的で歪な雰囲気を帯びていたのだ。
 この気味の悪い不和を、彼女は知っている。

(皇后陛下の美貌の正体は……偽りの魔女のマナね)

 文献で、魔女は年を取らないと読んだことがある。それは不気味さや嫌悪感を煽るための誇張だと思っていたが、闇のマナはそういった作用もあるのだろう。

(魔女のマナを持たない者が魔女の儀式をするには、膨大な生贄が必要だと聞くわ。あの美しさを保つのに、一体なにを犠牲にしているのかしら……)

 おぞましい文献の内容を思い浮かべると、ぞくりと粟立った。
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