もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「皇太子と婚約をした令嬢ですから、自然と噂が広まるのでしょう」
皇后の侮蔑の言葉に、最初にレオナルドが噛み付く。婚約者のことを尻軽などと俗的に表現されて、無性に腹が立ったのだ。
だが、皇后はそんな擁護も嘲笑う。
「ヴィッツィオ公爵令息と婚約をしていたのに、皇太子に求婚されて乗り換えたのだろう? なんと打算的な令嬢であろう」
「彼女の婚約解消と私との婚約成立に、帝国法上でなんの問題もありませんよ、義母上」
「それは書類上であろう? 世間はどう見るかのう?」皇后は意地悪そうにくすりと笑う。「北部の英雄とまで謳われる皇太子が色恋に狂うなど……義母として情けないわ」
「恋愛スキャンダルは、たしかに第二皇子には負けますね」
「問題は数ではない。事の大きさだ」
血の繋がっていない母子は睨み合う。
その隣で、皇帝が呆れたようにため息をついていた。
キアラはレオナルドから今日は黙って微笑んでいればいいと言われていた。面倒事は全て自分が引き受ける、と。
皇族には皇族の事情というものがあるのだろうと彼女は承諾したが、今この瞬間は黙っていてはいけないと思った。
婚約者だけに任せっきりで、守られることしかできない自分ではもうないのだ。