もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

「たしかに」キアラは皇后の圧に負けないように声を張り上げる。「たしかに陛下のおっしゃる通りに、今は(・・)世間からはそのように見られる可能性がございます」

「ほう?」

 皇后は義理の息子の婚約者を、初めて興味深く見る。

「ですが、書類の上ではなんの問題もございません。それは疚しいことなど皆無というこです。ですので、世間の根も葉もない噂は、ただの雑音に過ぎませんわ。嵐の一夜のような、一瞬の」

「だが噂というものは、げに恐ろしきものよ。たった一言から始まって国が傾くこともある」

「そのような些末なこと、握り潰せば良いのです。皇后陛下は得意なのではありませんか? ぜひご教授いただきたいですわ」

「……言いよるのぉ、娘」

 皇后の瞳が鋭くぎらついた。

「キアラ・リグリーアですわ、皇后陛下。私は娘でも、皇太子妃になる娘です。帝国の頭脳の中心である殿下ならば、地方の取るに足らない男爵令嬢の名さえも記憶していましょうに。お戯れを」

 皇后は微かに口元に弧を描く。これは少なからず手応えがあったと感じた。

 過去にダミアーノから聞いたことがあった。皇后陛下は野心を持つ人間を好む、と。
 なので少々強引ではあるが、多少無礼を働いても問題ないだろうと読んでいた。
 むしろ、皇后の性格ならここでビクビクと小動物のように怯えていたら、吊し上げの格好の餌食となっていたはずだ。
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