もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

22 チップが欲しい

「皇后陛下を挑発し過ぎではないですか?」

「君に言われたくないな」

 謁見が終わって、キアラとレオナルドは皇太子の執務室で一息ついていた。
 と言っても、今後についての話し合いが中心で、とても婚約者同士の甘い空間ではない。

「あの人はあれくらいやらなければ、たちまち食われてしまうんだよ。――君も、よくぞ言ってくれた」

 レオナルドはニヤリと笑う。キアラもふふふっと悪そうな笑みを浮かべた。

「たしかに……禍々しい魔女のマナは別として、人を飲み込んでしまいそうな雰囲気がありましたね。カリスマ性とでも言うのでしょうか?」

 皇后はぐんと迫り来るような大きな存在感を宿しているが、どこか飄々としていて人を惹きつけるものを持っていた。自信にみなぎり、強い力で周囲を根こそぎ引っ張ってくれるような。

 レオナルドは頷いて、

「あぁ。彼女の人の上に立つ器は、目を見張るものがある。だからこそ厄介だ」

「えぇ。皇后の生来のカリスマ性と魔女のマナが合わさって、物凄い熱量の塊のようでした」

 レオナルドは紅茶で喉を潤してから、今度は声を潜めて言う。

「……あのマナは、やはりヴィッツィオ公爵令息と同じものだと感じるか?」

 キアラも彼に調子を合わせて、慎重に頷いた。

「はい。おそらく不老に関する魔法でしょう。マナを魔女の――闇の力に転換させるために、かなりの生贄を用意しているのだと思います」

 生贄と聞いて、レオナルドは顔を顰める。キアラも胃の中がむかむかしていた。皇后は己の美しさを維持するために、他の生命を犠牲にしているということだ。

「魔女の魔法は帝国法で禁止されているが……。それ以前に胸糞悪いな。とても」

「えぇ。とっても」
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