もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
二人は不快な気分を流し出すように同時に紅茶を口にする。ほんのり甘くてフルーティーな香りが、口いっぱいに広がる。キアラにとって初めて味わう茶葉で、思わず感嘆の声を漏らした。
彼女の様子を、彼は見逃さない。
「驚いたか。うまいだろう?」と、勝ち誇ったようにニッと口角を上げた。婚約者が紅茶が好きだと聞いて、今日のためにわざわざ取り寄せたのだ。
「美味しすぎて驚きましたわ! お砂糖も入れていないのに、まろやかで後味もすっきりしていますね」
「北部産の茶葉だ。量は多く取れないが味はいい。君の商会で貴族向けに流通できないか?」
「それは素晴らしいアイデアですわ! 早速、販路を考えましょう」
キアラはにこりと笑う。
レオナルドもにこりと笑う。
紅茶から立ち昇る湯気が鼻腔をくすぐった。
「…………」
「…………」
しばらくのあいだ、二人は見つめ合った。彼はにこにこと笑顔で、彼女は不可思議に首を傾げて。
ややあって、
「あの……」
居心地の悪い思いをしていたキアラが、思い切って口を開いた。
「なんだ?」
「な、なんでしょう?」
「なにが?」
「さ……さきほどから、その、私の顔を見て……」
キアラは口ごもる。いくら婚約者同士でも、にこにこと笑顔で見つめられるのは慣れない。ダミアーノとは、このような平穏な空白の時間などなかったのだ。
レオナルドはまっすぐにキアラを見つめて、
「あれは、くれないのか?」
「あれ?」
「あれだよ、あれ」
「えぇっと……?」
キアラは頭をフル回転させて思考するが、なんのことだかさっぱり分からない。
やがて、彼がじれったそうに口を開いた。
「私にはチップはくれないのか? 儲け話を持って来てやったのだぞ」