もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

23 マルティーナの鬱憤

 「なんでっ……なんでわたしたちは婚約できないのっ!?」

 マルティーナの悲鳴みたいな声が部屋中に響いた。

「仕方ないだろう? 両親が反対しているんだから……」

「リグリーア伯爵令嬢とは婚約者じゃなくなったんだから、もういいじゃない!」

「……貴族の家門にはいろんな(しがらみ)があるんだよ」

「ひどいっ……! ダミアンのバカバカ!!」

 ぽろぽろと涙をこぼすマルティーナを、ダミアーノが抱き締めてあげた。
 彼女は小動物みたいにぷるぷると震えながらしゃくり上げる。その様子は愛らしくはあるのだが、今日の彼にとっては重荷で仕方がなかった。

「はぁ……」

 思わず、大きなため息が出る。彼は複雑な思いを抱いていた。ここ一月ほどの怒涛の展開によって、かなり精神力を削られていた。
 キアラに騙され、皇太子に貶められ、両親には叱られ、恋人には泣かれて……。

 両親からリグリーア伯爵令嬢との婚約解消を告げられたときは、頭を思い切り鈍器で殴られたような大きな衝撃で、目の前がチカチカと白黒に点滅して卒倒しそうになった。

 それは彼女と別れることがショックだったのではない。この公爵令息たる己が、たかだか伯爵令嬢如きに虚仮(こけ)にされたからだ。しかも、皇太子という卑怯な武器を使って。

 だが、それはもう吹っ切れた。
 あの性悪女――キアラには必ず復讐を遂げるし、皇太子もこの機会に引きずり下ろせそうだからだ。その計画は地下で着々と進んでいる。
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