もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


 マルティーナは誰もが認めるほどの美しい令嬢だ。彼女はその容姿のおかげで、令息たちからチヤホヤされてきた。
 でも、ただそれだけだった。

 令息たちは彼女を持て囃すものの、決して婚約者には置かなかった。なぜなら彼女の家門は子爵家だから。それに目立った財産もない。

 彼女が狙う高位貴族の令息たちは、婚約相手は己の身分に相応しい令嬢と次々に結んでいった。貧乏子爵家の令嬢なんて、所詮はただのお遊びなのだ。

 その現実を突き付けられた彼女は、屈辱と苛烈な怒りで、頭がどうにかなりそうだった。

 そんな中、ダミアーノ・ヴィッツィオ公爵令息だけは違った。
 彼は本気で彼女を愛し、婚姻も約束してくれた。それは彼女にとって、小さな勝利だった。

 しかし、現実は(むご)い。ダミアーノは既に婚約者がいたのだ。

 彼女の積もり積もった鬱屈した気持ちは、だんだんと恋人の婚約者――キアラ・リグリーア伯爵令嬢へと向かっていったのだ。潰された粘土のように、とてもとても歪んだ形で。

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