もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

25 第二皇子アンドレア

「初めまして、キアラ・リグリーア伯爵令嬢。……いや、義姉上(あねうえ)と呼んだほうがいいかな?」

「っ……!」

 他人事のようにお菓子をぱくついていたキアラの前に、未来の義弟(おとうと)である第二皇子がやって来た。
 想定外の行動に脈が跳ねる。彼女は慌てて小麦粉とクリームの塊をお茶で流し込んで、すっと立ち上がった。

「第二皇子殿下にキアラ・リグリーアがご挨拶申し上げます」

 そして丁寧にカーテシーをする。仮ではあるものの、今の自分は皇太子の婚約者であるので、たとえ敵対派閥の中心人物でも礼を尽くさなければ。

「顔を上げてくれ。未来の義姉上に頭を下げられるなんて、こそばゆい気分だよ」と、アンドレアは苦笑いをする。

「私の現在の身分は、殿下の臣下でございますわ」

「他人行儀だね」

「殿方と親しくすると皇太子殿下から叱られますから。今日も監視がついているのですよ?」

 キアラは影のように側に控えている侍女(ジュリア)を見ながらくすくすと笑う。これは場を和ませる風に見せかけた牽制だった。

 第二皇子は人当たりは良いと言われているが、いかんせん素行が宜しくない。彼の性質なら義兄――しかも己の競争相手の婚約者を寝取ろうと行動を起こすのは容易く想像できた。

(なっ……なんで知っているんですか!?)

 一方、済ました顔で立っているジュリアは内心焦っていた。彼女は本当に(・・・)レオナルドから監視を命じられていたのである。
 侍女だけではない。皇太子は会場の執事やメイドたちも、自身の手の者を紛れ込ませていた。

 特にジュリアは常にキアラの一番近くにいるので、もしもの時のために攻撃魔法のマナが宿った魔道具も託されていた。だから実のところは監視というよりは護衛のようなものだ。

 この侍女は、皇太子が婚約者の動向を知りたがっていることは重々に承知していた。それも大きな愛情の気持ちから。
 なので、今日の出来事も一語一句漏らさずに報告しようと思っていたのだが、それも全て見破られていたとは。

(さすがです、キアラ様!)

 侍女の好感度が上がった一瞬だった。
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