もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


義兄上(あにうえ)は意外に嫉妬深いのだな」アンドレアはくつくつと笑う。「戦に明け暮れていたから、女とは縁が皆無なようだったからね。やっと掴んだチャンスを手放したくないのだろう」

(……は?)

 婚約者の義弟の、兄を小馬鹿にするような発言にキアラは苛立った。自分は大した功績を上げていないくせに、随分な上から目線だ。

(抱いた女の数が多いほど男として上だと思っているのかしら? とんだ下半身脳ね)

 実際に、アンドレアの浮名は枚挙にいとまがない。彼の女癖の悪さには皇后も頭を抱えているみたいだ。
 だからこそ早く名家の令嬢と婚姻をさせて、子を作らせて地盤を固めておきたかった。
 高貴な血筋の跡取りさえできれば、皇子が女遊びを再開させようと問題がない。それに派閥としても、神輿は軽いほうが良かったのだ。

 ちなみに、皇后は本音は他国の王女を娶りたかったのだが、どこからも恐れ多いとオブラートに包んで女遊びを理由に断られていた。
 あまつさえ「皇太子殿下でしたら……」と、毎回のように矛盾した言葉も付け加えられて、彼女のレオナルドへの憎しみは一層深まるばかりだった。


「私が皇太子殿下から愛されていることを、第二皇子殿下もお認めくださって光栄ですわ」

 キアラはにっこりと笑う。これも牽制だ。愛し合う二人の仲に邪魔者は入って来ないでね、と。兄は弟のような軽薄な人間ではない。

「全く……。令嬢のような純真さを持っているな、義兄上は」

「それは嬉しいお言葉ですわね。婚約者から真っ直ぐに愛されることは喜びですから」

「なるほど。義兄上がなぜ君を選んだのか、なんとなく分かった気がするよ。君も一途なんだね」

「恐れ入ります」

 アンドレアは女性関係ですこぶる悪い噂ばかり聞くが、それでも令嬢や夫人たちとの噂が絶えない理由が理解できた気がした。

 第一印象は、誰もが好感を覚えることだろう。人を惹き付ける容姿はもちろん、物腰の柔らかさや美しい立ち居振る舞い……見てくれだけなら完璧な皇子様だった。
 短時間だけ見る張りぼてなら、兄のレオナルドより立派に感じるかもしれない。
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