もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「殿下をお慕いしている令嬢たちの視線を感じます。皇太子殿下の婚約者である私が独り占めをするのは恐れ多いですわ」
「これは参ったな。僕としては、義兄上の婚約者のことをもっと知りたいのだけれど?」
アンドレアは令嬢たちの熱視線に優越感を覚えながらも、知らんぷりを決め込む。どうやら天性の女好きらしい。きっと今日も会場にいるどこかの令嬢と個人的に親しくなるのだろう。
「……私とは皇太子殿下を通じて再びお目に掛かる機会もございましょう。令嬢たちが首を長くして待っておりますわよ」
「ははは。そこまで言われたらレディーたちのもとへ行くしかないね」
その時、キアラはふと妙な気配を感じた。
そっと視線を移すと、マルティーナ・ミア子爵令嬢が近寄って来ていた。彼女の手元には香水の瓶ようなものが握られている。不穏な気配の元はその魔道具だった。
子爵令嬢はカサコソと警備を掻い潜り、第二皇子のすぐ近くまで来ていた。それに気付いた近衛兵が令嬢を咎めようと慌てて近寄る。
しかし、マルティーナの動作のほうが早かった。彼女はさっと蓋を開ける。
「えいっ!」
次の瞬間、キアラにしか見えない黒い煙が、勢いよく広がった。