もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「止めたまえ」
アンドレアはマルティーナを押さえ付けている近衛兵たちから、奪うように彼女を手元に引き寄せた。
「で、ですが――」
「私に意見するつもりか?」
「しっ……失礼いたしました!」
皇子が一睨すると、近衛兵たちは一瞬で背景へと戻る。
すると、世界は二人だけのものとなった。
握りあった手に熱がこもる。
「君、名前は?」
アンドレアの声音は打って変わって、優しさだけが満ちていた。
「マルティーナ・ミアと申します」
眼前の令嬢の、鈴を転がすような声が、彼の耳に心地よく鳴った。
「マルティーナか。素敵な名前だ」
「ありがとうございます」
彼女の頬が一層上気した。
しばらく二人は見つめ合う。
その外側では、驚愕の出来事に衝撃を受けた貴族令嬢たちがきゃんきゃんと子犬のように騒いでいるが、彼らには少しも届かなかった。
皇子は跪き、子爵令嬢の手の甲に優しくキスをする。
「マルティーナ、あなたを愛する権利をいただけますか?」
外野に令嬢の切り裂くような叫び声が轟く。ばたばたと気絶する者もいた。
だが、二人には聞こえない。
世界は、二人だけを祝福していた。
「はいっ……!」
マルティーナはこくりと頷いた。アンドレアは喜びのあまり飛び上がり、彼女を抱きしめ――……、
キスをした。