もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

27 議会は迷走する

「私は、皇太子殿下に愛する婚約者を奪われてしまいました……!」

 議会は盛り上がっていた。
 普段と変わらない顔ぶれなのに、今日は人々の興奮が熱気となって会場を渦巻いていた。

 その中心には、ダミアーノ・ヴィッツィオ公爵令息と、皇后派閥の数名の貴族。
 彼らは演台から懇願するように王族席を見上げ、令息はまるで悲劇のヒロインみたいに訴えかける。
 その様子に同情している者など皆無で、議場は皇后と皇太子の政治的な戦いへの興味しかなかった。

 可憐な令嬢が婚約者を奪われることは社交界の同情を集めるが、令息が婚約者を奪われるのは噴飯ものとされていた。一人の令嬢の心さえも掴めない男は、貴族としての信頼にも傷が付くのだ。
 なので、間抜けにも婚約者の令嬢を取られた令息たちは、そのことをひた隠しにするのが常だった。

 しかしヴィッツィオ公爵令息は、恥知らずにも議会という公の場で「皇太子に婚約者を奪われた」と主張したのだ。
 通常なら家門から追い出されるくらいの情けない行為だが、今回は事情が違った。
 彼のバックには皇后が付いている。これは女を取られた男の陳情ではなく、政治的な攻撃だった。彼らの目的はただ一つ――皇太子を引きずり下ろすことだった。

 ダミアーノは今回の計画に賭けていた。マルティーナと婚約するために、皇后からの推薦を貰うのだ。
 いくら両親でも、皇后の言葉には逆らえまい。それに上手くいけば、第二皇子政権で宰相の椅子も手に入るかも……。
< 131 / 221 >

この作品をシェア

pagetop