もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
(やれやれ。契約を破ったら賠償金を払うと記してあるのにな)
レオナルドは白けた様子でこの茶番を眺めていた。
キアラとダミアーノの婚約解消の際に、ヴィッツィオ公爵家とはいくつかの契約を結んだ。その中の一つに、今後この件で騒ぎ立てるようなことがあれば賠償請求をするという項目がある。
公爵は息子には言い聞かせていなかったのだろうか。はたまた、皇后が後ろ盾になっているので関係ないと思っているのか。
奇しくも、今日はヴィッツィオ公爵と夫人は領地へ戻っている。愚かな息子が単独でこの機会に乗じたのだろう。
「……で、私とリグリーア伯爵令嬢が貴公と婚約中に不貞を行っていたという証拠はあるのかな?」
一通り話させたあと、注目の皇太子はうんざりしたように問いかける。
「まさか感想文だけではないだろうな」
皇太子の挑発に会場内から失笑がこぼれた。現段階ではどう見ても公爵令息の「お気持ち表明」だったのだ。
「あれが次期ヴィッツィオ公爵か」
「将来は家門の勢力図も変わるでしょうな」
……と、そんな嘲りがどこからともなく聞こえてきた。
皇后も微かに眉を顰める。まさか公爵がこれほど使えないとは。公爵見習いの仕事は素晴らしい出来だと聞いていたのに、どういうことだろうか。
「例えば、私が伯爵令嬢に恋文でも渡した証拠があれば良いのだが?」
レオナルドは鼻で笑う。
ダミアーノはぐっと歯を食いしばって、
「何よりも状況証拠が物語っているではないですか! 私とキアラ嬢が婚約解消をして、早々に殿下と婚約をしている。それは、彼女の男の交際期間が重なっていたという何よりもの証左!」
「貴公と婚約解消をした直後に婚約を申し込んだのかもしれないぞ。武人はせっかちなのだ。いつ死ぬか分からぬからな」
「ふざけないでいただきたい! 皇族の婚約が、このように早急に決まるわけがない!」
「伯爵令嬢は非常に魅力的だ。他の男に取られないように急いだまでだ」
「それは詭弁です!」