もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「そこまでだ」
その時、雑音を引き裂くように皇后ヴィットリーアの声が響いた。まるで訓練された犬みたいに、貴族たちはピタリと静まり返る。
「もう、よい。経緯は分かった。とんだ茶番だな」
皇后の氷のような冷たい視線がダミアーノの瞳を貫いた。恐怖に背筋が凍り付く。
自分は失敗して、今、切り捨てられようとしている。……暗い未来が、彼の頭の中を支配した。
「全く、おっしゃる通りで」と、レオナルドは肩を竦める。
「だが、これは皇太子の軽はずみな行動が招いた結果なのだろう? 責任を取るべきではないか?」
皇后はは歪んだ口元を吊り上げた。
(そうきたか……)
レオナルドはうんざりと眉根を寄せる。
おそらく、皇后は最初から論調をココに持っていく予定だったのだろう。その前に成功すれば幸運なくらいの感覚で。
「私が責任を取る理由が、よく分かりませんね」と皇太子。
「愚か者に噛み砕いて教えてやろう。そなたが騒ぎを起こした責任だ」
「騒ぎなら私より第二皇子のほうが頻繁に起こしているではないですか。彼はその度に責任を負っていましたっけ?」
「第二皇子は、議会にまで持ち込まれるような騒ぎなど起こしてはおらぬ」皇后は鼻で笑って一蹴する。「……対して皇太子は、痴情のもつれを公の場にまで持ち込むとはのう? 情けない限りだ」
「そのような事実はありません」
「だが、訴えられるような誤解を招く行動を起こしたのは事実。貴重な議会の場を汚した責任を取るのは筋であろう?」
「っ……」
勝った――と、皇后はほくそ笑んだ。
議会にまで女関係を議論される皇太子など前代未聞。このような痴れ者が帝国の政を牽引するなど言語道断。上に立つ者は人格も優れていなければ。
面倒くさいのに絡まれたな――と、皇太子はもう何度目か分からないため息をついた。
義母上は隙あらば攻撃を仕掛けて来る。俺に文句を付ける前に実の息子の性教育をしろよ……と、彼は心の中で毒づいたのだった。