もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
そんな主の怒鳴り声も、ダミアーノには届いていない。
(マルティーナ……なぜ……。昨晩も、あんなに愛し合ったのに……。オレたちは結婚するんじゃなかったのか…………?)
彼の頭の中は、愛しい恋人のことでいっぱいだった。
事件の一報を耳にした時は天地がひっくり返るような衝撃で、ぐらぐらと足元が揺れて立っていられなかった。
婚約宣言という事実がにわかには信じ難く、相手がうんざりするくらいにに何度も何度も真実なのか問い質した。
(ティーナは、オレを愛していなかったのか……? 公爵令息より金も権力のある皇子が良かったということか……?)
真実の愛だと思っていた。
初めて出会った瞬間から運命を感じて、それからは本能のままに彼女を求めた。
こんなに女性を愛したのは生まれて初めてだし、愛する喜びを覚えたのも初めてだった。
それは、マルティーナも同じ気持ちだと思っていた。いつも笑顔で、献身的に支えてくれていた。彼女が己の隣にいる時もいない時も、包み込むような大きな愛を感じていた。
そんな彼女に報いるために、邪魔者を排除するつもりだった。
派閥での地位の確立のために上手く利用して、使い捨てて、婚約破棄と罪の擦り付けができて一石二鳥だと考えていた。
しかし…………、
もし、マルティーナが最初から自分のことを愛していなかったら…………?
それを想像すると、暗闇の底に真っ逆さまに突き落とされる気分だった。
胸が、苦しい。
(いつからだ……? マルティーナは、いつからこの計画を……?)
考えたくはない。だが、向き合わなければいけない。
自分は、裏切られていたのだ。
婚約者からも……大切な恋人からも。