もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「レオナルド様、お気持ちはとても嬉しいのですが……」
婚約者の呼び掛けに意識を戻すと、彼女はとても困惑気味に仮の婚約者を見上げていた。
「チップは、感謝の気持ちを込めて渡すものです。……まぁ、若干、邪な気持ちも入っておりますが……。
――で、ですので、お好きに使ってくださいまし」
「好きに使った結果なのだが」
「これでは、私に戻って来てしまいましたわ」と、キアラは苦笑いをした。「賄賂の意味がありません」
「意味はあった。俺にとっては、な。とても尊い経験ができた」と、彼はふっと笑った。
「えっ……?」
キアラはますます困り顔をする。婚約者の言っている意味がよく分からなかった。なぜ、あんなに嬉しそうにしているの?
数拍して、レオナルドが再び口を開く。
彼は今言うべきだと思った。
「……金とは便利ものだ。小さな物体なのに、人を動かせる力がある」
「えぇ。おっしゃる通りですわね」
「だが、結局それは、道具の一つでしかない。人の心の芯の部分は、また別の場所にあるのだよ」
「それは……同意しかねますわ」と、キアラは眉根を寄せた。
彼女の七回目の人生では、金銭こそが自分を覆う武器になっているからだ。その威力は魔女のマナより絶大だった。
チップの配布と他より豊かな報奨の提供で、屋敷の人間や商会の関係者の心をしっかりと掴んでいるのだ。
レオナルドは見透かしたように、じっとキアラの瞳を覗き込む。彼の強い眼球を伝って全てを吸い取られそうな気がして、彼女の胸が早鐘を打った。
「賄賂がなくとも、君の後ろ姿を見ている人物も大勢いるということだ」
「それは……どういう意味でしょうか?」
「君への信頼を作っているのは、紛れもない君自身なのだからな」
「…………」
やっぱり意味が分からなかった。