もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
(私は……今回こそは裏切られないように上手くやっているだけ……)
過去六回ともダミアーノの偽の魅了魔法で操られ、彼のために汚いことを沢山やった。その過程で多くの人を陥れたし……最後は愛しの婚約者のせいで殺された。
もう、懲り懲りだった。人は裏切るし、裏切られる。
だから、今度こそ人と人を結びつける道具を見つけたのに。
(私なんて、金銭を間に挟まないと……。信頼される価値なんてないのに……)
暗澹たる過去が、みるみる彼女を支配した。嫌なことを思い出して、ずんと心が沈み込む気がした。
自分は、人として最低なことばかりやってきたのだ。処刑されるような人間だ。我ながら、本当に碌でもない人間……。
その時、俯きかけたキアラの頬を、レオナルドがそっと持ち上げた。再び彼の強い視線を浴びて、彼女ははっと息を呑む。
彼の顔はみるみる彼女に近付いて来る。突然のことで恥ずかしさも追いつかず、彼女は呆然と彼を見る。
そして彼の口元は彼女の耳に近付いて、そっと息を掛けるように囁いた。
「もっと自信を持ちなさい。君は、よくやっている」
「っ……!?」
途端に、キアラの顔が赤くなる。堰き止められていた羞恥心が急激に襲いかかって、思わず一歩後ずさった。
「ジュ、ジュ、ジュリア……」
狼狽えながら、壁と同化していた侍女を呼ぶ。
「は、はい、キアラ様! わ、私は何も見ていません聞いていません!」と、同じく慌てふためくジュリア。彼女は婚約者同士の甘い時間を邪魔してはいけないと焦っていた。
キアラは動揺したままふらふらとジュリアの前へ向かって、
「チ……チップをあげるわ! お礼よ!」
どかどかと機械的に懐の小袋を全て侍女に渡した。
「きゃあっ! キアラ様、これは金貨の小袋です! こんなに多くはいただけませんよ!」
「いいの! いいの! 取っておいて! チップは、あればあるほど良いものでしょう?」
「それはそうですけど……今日の私は功績になるようなことを何もやっていませんって! 落ち着いてください!」
「功績っ!? そうね、お茶を淹れてくれた功績よ!」
「それは功績ではありませんっ!!」
二人の微笑ましい様子を、レオナルドはくつくつと笑いながらおかしそうに見つめていた。
「殿下、国王陛下から緊急のご連絡が……!」
その時、アルヴィーノ侯爵が急いで部屋に入って来て、レオナルドに耳打ちをする。すると彼の瞳が大きく見開いた。
それは大洪水が起こった東部で反乱があり、皇太子が至急向かって収拾せよ――という皇帝直々の命令だった。