もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「反乱だって? 一体、なぜ?」
「それが、よく分からないのです。東部の領主から早馬で嘆願書が届いて、殿下に一刻も早く来ていただきたい、と……」と、アルヴィーノ侯爵も詳細が分からずに眉を下げる。
「レオナルド様、これは何らかの陰謀ですわよね……?」
「あぁ。君の想像通りに、また皇后が何かやったのだろうな」
次から次へと悪知恵が働くな、とレオナルドは軽く舌打ちをした。
キアラも頷いて、
「えぇ、そうとしか思えませんわ。現地で罠を張っているのでしょうね」
「だが、皇帝陛下の勅命とあらば、反対するわけにはいかない。――俺が向こうにいる間、君の警護は倍付けよう」
「そんな、私は今のままで問題ありませんわ。……有事の際は、魔女のマナを使いますから」
「それは駄目だ」
珍しくレオナルドがキアラに鋭い視線を一瞬だけ向けて、彼女は思わず飛び上がりそうになった。
普段は優しい婚約者でもたまに見せる軍人としての姿は、ぴりりと肌を刺すような緊張感を覚える。
「皇后は目聡い。どんな些細な事柄でも拾ってくる可能性が高い。だから、魔女のマナに関しては十分に警戒してくれ」
「……承知いたしました」と、キアラは首肯する。レオナルドの主張はもっともだと思った。
彼女は、第二皇子と子爵令嬢に魅了魔法をかけている。
今回は皇后派閥のマナの研究がどこまで進んでいるかを知りたかったのもあり、それは一時的な混乱を引き出せるだけで良かった。
だから軽めの魔力量にしたので、そろそろ効果も切れるはずだ。
皇太子と伯爵令嬢のスキャンダルは潰せて、さらに皇太子派閥は第二皇子に、キアラはマルティーナに恥をかかせたので成功だ。
だが、皇后は少しの隙も見逃さないかもしれない。
それに離れ離れになって皇太子という縦がなくなれば、どんな強引な手を使ってくるか。
皇后は己の美貌のために、人間を生贄にするような女だ。おそらく手段は選ばないだろう。