もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
残されたマルティーナは、ぶつけようのない激しい怒りを発散するように号泣し始める。
公爵家に来た当初は、近くにある花瓶や調度品にも当たり散らしていたが、これ以上貴重な品を破壊されたら困るので、執事が全てを倉庫へ仕舞った。
なので今では、誇り高い公爵家にあるまじき殺風景な屋敷になってしまった。
これが、最近の夫妻の朝の風景だ。
主たちの痛々しい姿を従者たちは見て見ぬ振りをして、それぞれの仕事へと向かう。
さんざん涙を流した小公爵夫人は、しばらくすると、しゃくり上げながら無言で一人部屋に戻るのが常だった。
(クソッ、忌々しい!)
王宮へ向かう馬車の中で、ダミアーノは何度も毒を吐く。
あんなに深く愛していた元恋人なのに、今では憎悪と嫌悪しか残っていなかった。最高に可愛らしいと思っていた顔も、今は卑しさが滲み出た醜いものにしか見えない。
(皇子に近付くためにオレを利用した、薄汚いビッチめ!)
こんなはずではなかった。
彼の計画は邪魔者のキアラを始末して、功績を上げて誰からも文句の付けられない状態でマルティーナを迎える予定だった。
そのために、これまで血を吐くような努力をしてきたのに。
運命の恋人のために、頑張ってきたのに。彼女のためだけに、生きてきたのに。
(なのに……)
なんで、こんなことになってしまったのだろう。
彼は己の凄惨な運命を、酷く呪った。
二人の間には、もう「愛」などは存在していない。