もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
そして、仕上げは……、
「ダミアーノ・ヴィッツィオ公爵令息。此度の騒ぎは、元はと言えばおぬしが子爵令嬢に手を出したことから始まった。由緒正しきリグリーア伯爵令嬢という婚約者がいながら。――違うか?」
「おっしゃる通りでございます……」
「ならば、けじめを付けろ。男として責任を取れ」
「…………承知いたしました」
現段階の最大の懸念は、子爵令嬢の処分だ。
慣例通りならば、皇族を騙していたのだから処刑が相応しい。しかし、アンドレアの人気取りのために殺すことは止めておいた。処罰は子爵家の爵位剥奪のみだ。
今後、皇位継承において市井から事件を蒸し返される可能性がある。その際に「殺した」と「殺さなかった」では大きな違いがあるだろう。
皇后は口の端を上げて、
「そなたが物分かりの良い人物で安心したぞ。代わりに公爵家の賠償金の件は、私から皇太子に請求しないように言ってやろう」
「ありがとうございます」
ダミアーノは恭しく頭を下げるが、複雑な心境だった。
もどかしい気持ちを押し潰すように、ぐっと歯を食いしばる。父から殴られた頬が、軋むように痛んだ。
あの男好きの売女などと婚姻するくらいなら、天文学的な賠償金を一生かけて払い続けるほうがマシだと思った。もう、あんな女、顔も見たくない。
だが、家門のことを顧みれば、皇后の命に従うのが得策だろう。
皇太子への賠償金を払うためには、公爵家の財産を全て売り払わなければならないことは、彼の頭でも重々に理解できた。屋敷も、領地も……最悪な事態だと爵位もなくなるかもしれない。
そのような惨めな境遇に陥るくらいなら、子爵令嬢を引き取るほうがヴィッツィオ家にとって最善なのだと考えた。
こうして、ダミアーノとマルティーナはついに悲願の結婚を達成したのだった。
二人とも、今となっては……非常に、非常に、不本意ではあるが。