もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

33 チャンスをください

「反乱など起こっていないだと……?」

 皇太子一行が東部へ到着すると、水害の復興作業にいそしむ領民たちの姿が目に入って来た。
 男たちは汗を垂らしながら瓦礫撤去などの重労働に励み、女たちは炊き出しをしたり服を繕ったりしている。
 そこには、反乱への激しい怒りの感情など、少しも宿っていないように見える。

 レオナルドは早速領主の屋敷へと赴き、此度の嘆願書についての事情を聞きに行ったのだが――……、

「それは……私が記したものではございません」

 待っていたのは、ただ困惑する領主の姿だけだった。


「嵌められたな」と、レオナルドは渋面を作る。
 首謀者は疑いもなく皇后だろう。皇太子を遠い地方へ飛ばしている間に、宮廷で陰謀を繰り広げているのだろうか。どうせまた碌でもないことに違いない。

「急いで戻ったほうがいいな。復興の様子は気になるところだが……」

「そうですね。皇都には伯爵令嬢が待っていますし、殿下は心配ですよね」とアルヴィーノ侯爵。

「そっ……」側近に図星を突かれてレオナルドは言葉を詰まらせた。「それは……その……問題ない……」

 頬が熱くなるのが分かった。つい心無い言葉を口走ったが、本音はキアラのことが心配だった。
 絶対的な力を手に入れた彼女は、同時に危うい立場にもなってしまったからだ。

 たしかに、魔女のマナを持つ彼女は強い。だが、それが世間に露見すれば忽ち窮地に陥ってしまう。綱渡りのような危険な力なのだ。

 己が側にいれば皇太子の権力で守ってやれるのだが、彼女はいくら皇族の婚約者とはいえ、今はただの伯爵令嬢にすぎない。第二皇子(おとうと)や元婚約者の件で落ち着かない皇都に一人置き去りにするのは、酷く胸が痛んだ。

 ――と、だぐだと理由を並べてみたものの、彼は単に愛しの婚約者にただ会いたかったのだ。

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