もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「きゃっ」
その時、キアラはなにかにぶつかった。顔を上げると、眼前には軍服を着た人物が立っている。
(薄暗くて見えなかったわ……)
キアラは慌てて頭を下げて、
「申し訳ございませんでした。私の不注意です」
「いや……。俺のほうこそ悪かった。怪我はないか?」
目の前の人物と、目が合った。
刹那、キアラはドキリと心臓が跳ね上がる。
(あれは……皇太子殿下……!?)
そこには北部で戦っているはずの皇太子レオナルド・ジノーヴァーが立っていたのだ。
遠くからではあるが過去に何度も見かけた懐かしい顔をみとめるなり、彼女の中にみるみる同情心が生まれてくる。
(いつも皇后に嵌められて処刑される可哀想な人……!)
彼女の知る皇太子は、皇后とその派閥の計略によっていつも処刑で最期を迎える哀れな姿だった。自分自身も毎回ダミアーノに嵌められて処刑されていたので、どことなく親近感を覚える。
(あなたも毎回苦労しているわね……。今回こそは互いに幸せになれるといいわね)
そんな風に他人行儀に慰めるキアラだった。