もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜


 ダミアーノは一度深呼吸をしてから、

「本日はお願いがあって参りました!!」

 がばりと(こうべ)を垂れ、膝を付いた。高位貴族のプライドのない姿に、思わず皇后も目を見張る。

 少しばかりの困惑した沈黙。
 そして、皇后のほうから口火を切った。

「願い、とな?」と、彼女にしては珍しく興味深く尋ねる。

「はっ! 私に今一度チャンスをいただけないでしょうか?」

「ほう……」皇后の唇の片端が微かに上がった。「チャンスとは? そなたは何を望む?」

「私が……。私が、皇太子と伯爵令嬢を潰す機会をお与えくださいっ……!!」

 ダミアーノは頭を床に付けて懇願する。もうなりふり構っていられなかった。上へあがるために、何がなんでもやり遂げなければいけない。

 今のヴィッツィオ家は社交界で嘲笑の的になっている。家門の威厳はどん底だ。
 だが、堕ちたままではいられない。他人の噂話ばかり興じている貴族どもを見返して、上へ戻り……その先へ行く。そのためにも、もう手段なんて選んでいられないのだ。

 皇后は実力主義だ。ここで挽回できれば、再び日の目を見ることが出来るはずだ。
 そうしたら、また、未来の宰相の座だって……!

 皇后は困ったように首を傾げて、

「だが、そなたは何度もしくじっておるからのぅ……」

 わざとらしくため息をついた。
 しかしダミアーノは引き下がらない。獣が獲物に食らいつくように皇后に縋り付いた。

「何でもやりますっ! 何でもやりますので、どうか……どうか、お願いいたしますっ……!!」

 にわかに場は静まり返って、ダミアーノの声だけが反響する。空気はひんやりと冷たかった。
 皇后は思案するような素振りを少し見せてから、

「何でもする、と言ったな……?」

 ニヤリと口元を歪ませた。

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