もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

34 襲来 ※若干、血なまぐさい描写あり

「なによ、これ……」

 キアラの眼前には、目を背けたくなるほどの酷い光景が広がっていた。
 穀物が入った麻袋はズタズタ、蒸留酒の樽は割られて、貴重な織り機はパラパラと骨が崩れ落ちている。

「今朝、酒樽を取り出そうとこちらへ向かったら、既に扉が壊されておりまして……」

 商会から緊急の呼び出しを受けて、郊外にある商会の倉庫へ向かったらこの惨状だ。
 倉庫内はまるで嵐が直撃したように荒れに荒れ、保管していたものはもう殆どが使い物にならなそうだ。

(なんなの……この違和感は……?)

 倉庫の中に足を踏み入れた途端に、キアラの胸はそわそわと波立った。部屋全体に、異様なマナの気配が漂っていたのだ。

(この人工的なマナは……!)

「キアラ様、これっ!」

 ジュリアが血相を変えて壊れた樽の一部を持って来た。そこには、鋭利な爪のような引っかき傷があった。

「これって、魔獣の爪痕……ですよね?」

「そのようね」

 キアラは頷き、その場の者は全員息を呑んだ。
 建国以来、皇都には魔獣など出たことがない。たまに趣味の悪い貴族がペットや見世物として一匹持ち込むくらいだ。

 しかし、ここには魔獣のマナが満ちている。そして、キアラしか気付いていない人工的なマナ。
 それはおそらく、皇后派閥の者が紛い物の魔女のマナによって魔獣をここに導いた――ということだろう。

(でも、なんのために……?)

 考えられることは、キアラとレオナルドの商会を潰したいのだろう。
 皇后派閥は今回の第二皇子と子爵令嬢の件で、かなりのダメージを負っている。
 そこに東部の洪水への対処で、皇太子と伯爵令嬢の評判は上々。二人の皇子の間には随分と差が付いてしまった。

 それを埋めるためにも、資金源になっているキアラたちの商会を潰そうという策略だ。

(……となると、レオナルド様の商会も狙われているはずよね)

 不安の影がじわじわと胸に広がって行く。皇后は皇太子が皇都にいない今、積極的に攻撃の手を伸ばすだろう。

(彼がいない間、私がしっかりしなきゃ……!)

< 161 / 221 >

この作品をシェア

pagetop