もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
◇
パーティー会場は、ざわめきが起こっていた。
話題の女性――マルティーナ・ミア子爵令嬢……ではなく、ヴィッツィオ小公爵夫人が現れたのである。それも、単独で。
未婚の令嬢が一人で参加をするのはよくあることなのだが、既婚者がパートナーを伴わずにやって来るのは珍しかった。
参加者たちはまるで珍獣でも見るみたいに好奇な目を向けて、ヒソヒソと今宵の彼女についての見解を述べていた。
マルティーナは公爵家に届いていた招待状を密かに盗んで、屋敷の人間に悟られないようにこっそりと抜け出していた。
きっとダミアーノに知られたら、烈火の如く叱られるだろう。
それでも、構わない。自分の真の運命の相手を救うためにはなりふり構っていられないのだ。
(えぇっと……誰か知り合いの子は……?)
マルティーナは、そんな周囲の嘲りを孕んだ雑音なんてものともせず、かつて令嬢時代だった頃の友人を探していた。
彼女は今夜、騎士さながらの聞き込み調査をしに来たのだ。未だ軟禁されているであろう愛しの恋人――アンドレア第二皇子の情報を掴むために。
「あっ! 侯爵令嬢!」
「っ……!」
彼女はお友達を見つけると、ぱっと笑顔になって駆け寄った。
「ご機嫌よう。お久しぶりね」
「……」
侯爵令嬢は顔を引きつらせながら軽く会釈をすると、逃げ出すようにすぐにその場を去って行った。こんな恥知らずな女と知り合いだなんて、周囲に知られたくなかったのだ。
「どうしたの……?」
他人の感情に鈍感なマルティーナは「お腹でも痛いのかしら」と首を傾げたが、時間が惜しかったので次のターゲットを探した。
しかし、どんなに目を皿にしても友人の令嬢たちは見つからない。今日は高位貴族主催の夜会なので絶対に参加していると思っていたのだが、見当外れのようだ。
実のところはマルティーナのかつての友人たちは、侯爵令嬢と同じく知人だと知られたくないので彼女に見つからないように隠れていたのだが。
ホール内を隈なく探索して、友人が一人も見つからずに諦めかけたその時だった。
「アンドレア様……?」
マルティーナの碧色の円い瞳に、愛する恋人の姿が映ったのだ。