もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「ね、アンドレア様もそう思いますよね?」
やっとマルティーナの拙い長広舌が終わった。彼女は自慢の円い瞳をぱちくりさせながら、促すようにアンドレアを見た。
きっと、これまでみたいに優しく抱きしめてくれて、甘ったるい言葉で慰めてくれるに違いない。
やっと今夜から彼の寝室で眠れるのね。そう思うと、公爵家のメイドにもっと綿密に身体の手入れをさせれば良かった。
「……は?」
やっとアンドレアが一言だけ言葉を発する。
皇子は、光のない冷たい目で彼女を見下ろすだけだった。あまりに恐ろしい瞳に、ゾクリと背筋が凍る。
「えっと……? どうなさいましたの……?」
一拍して、おそるおそる問いかける。これまでとは異なる彼の冷淡な態度が、にわかには信じられなかった。
アンドレアは長いため息をついてから、
「お前は何か思い違いをしているようだな」
身体の芯に響くような低い声音で言い放った。彼女は急激に怖くなって、覚えず一歩後ずさる。
「ど、どういう……」
「お前は婚約者のいるヴィッツィオ公爵令息と肉体関係を持ち、さらに皇子である私を手に入れようと、皇族を欺いたな」
「ちがっ……わたしは……」
「違う? これは議会の正式な書類に記されていたのだが? ……皇太子が作成した、な」
「っ……」
マルティーナは二の句が継げずに動きを止める。アンドレアの怒りは、彼女にまっすぐに降り注いでいく。
「子爵令嬢如きが皇子である私を欺き、誑かそうとしたのだ。本来なら極刑のところを皇后陛下の慈悲で生かしてやっているのだぞ。
あまつさえ、未婚の頃より肉体関係のあった公爵令息と悲願の婚姻までさせてやった。苦情どころか感謝をしてもらいたいほどだ」
「待って! わたしが本当に愛しているのは――」
アンドレアの消えた表情に、マルティーナの全身が逆立つ。凍てつくような視線が、彼女の心臓を貫いた。
「二度と私の前に現れるな」
とどめの一言。それは、かつてあんなに愛し合って、甘い言葉を交わし合った恋人同士の言葉には思えなかった。