もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
そんな演劇みたいな刃傷沙汰を、キアラは令嬢たちに混じって遠くから見つめていた。
若い女性の金切り声。皿の割れる金属音。恐ろしく歪んだ形相の女。流れる高貴な赤い血。残った手首。武器が擦れる音。悲鳴。
……全てが計算された舞台の演出みたいで、ここからは隔絶されているように感じる。
(私がかけた魅了魔法は、とっくの昔に切れているのにね……)
ならば、マルティーナは本気で第二皇子のことを愛しているのだろう。
六回もの人生で、あんなに深く愛していた公爵令息よりもずっと。
移ろいやすい愛。儚い愛。存在しない愛。
マルティーナは結局のところダミアーノやアンドレアそのものを愛しているのではなく、彼らの背景を愛しているのだ。
下級貴族である子爵令嬢が上の階層へ行くために公爵令息と恋仲になり、真の婚約者から奪って、やっと手に入ったらもっと上を掴みたがる。
――じゃあ、もし第二皇子より上の存在が現れたら?
彼女はまるで飢えた獣みたいに、上へ上へと最上階を目指して進むのだろう。そこに、ゴールなんてない。
(私は……あんな軽薄な女に負け続けいていたのね)
虚しさが塊となって、キアラを包み込む。
今となってはもう分からない。もしかしたら、彼女は最初は心からダミアーノのことを愛していたのかもしれない。
魅了魔法がかかる前のことは、もう覚えてはいないが。
(偽物の愛に、負けていたのね……)
キアラはおもむろに立ち上がり、ホールから出て行った。
今はただ、悲しみしか心に反響していなかった。