もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

 次の瞬間、マルティーナの心臓が跳ね上がった。
 彼女の眼の前にいたのは、

「キアラ・リグリーア……」

 キアラは、無表情でマルティーナを見下ろしている。
 マルティーナは、表情を消してキアラを見上げていた。

 七回目にして、初めて二人の立つ位置が変わったのだ。
 今度は、キアラが牢獄の外で、マルティーナが檻の中に。

 少しのあいだ、二人は無言で見つめ合う。生ぬるい空気が、肌をべとつかせた。
 数拍して、キアラが口火を切る。

「久し振りね、ミア子爵令嬢? ……いえ、今はただのマルティーナ、だったわね」

「は……?」

 マルティーナの顔にたちまち表情が戻って、顔を歪ませながらキアラを()め付けた。
 そんな醜い彼女の様子を見て、キアラはくすりと笑う。

「あなた、公爵家から離縁されて、子爵家も貴族籍を剥奪されたのでしょう? だから、ただのマルティーナ。平民は家門を持たないからね」

「…………」

 重い沈黙。マルティーナはキアラを睨み続ける。

「……何しに来たの?」

 今度はマルティーナから低い声音で訪ねた。
 キアラは少しだけ思案して、

「あら、何をしに来たのだっけ? 強いて言えば……見物?」

「死ねっ!」

 キアラはおどけるように目を見開く。本当に、ただマルティーナを見に来ただけだったのだ。

 過去六回は彼女(あちら)のほうから地下牢へやって来て、罵詈雑言を吐いくだけ吐いて颯爽と去っていた。
 それがどういう気持ちになるなのか、試しに己も同じ行為を取ってみただけだ。
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