もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

 その時、ふとキアラの頭に暗い影が過った。

(彼は……私が回帰しているって気付いているのよ、ね……?)

 はっきりと彼の口からは聞いていないが、自分の意見をすんなり聞いてくれるところや、なんとなく彼の態度でそう感じていた。
 でも、直接言われていないし、こちらからも言っていない。

(回帰を知っているということは……彼も…………?)

 そう考えると、背中がゾワゾワと粟立った。
 過去を知っているということは……キアラの罪も知っているということだ。ダミアーノの命令で行った、数々の身の毛がよだつ行為を。

 レオナルドは表面上は優しくしてくれるが、本当は自分のことを軽蔑しているのだろうか。
 ……やっぱり、嫌悪している?

 そのことに想像を巡らせると、胸が苦しくなった。
 彼に……嫌われたくない。

「キアラ様?」

 突然黙り込んで俯く主人に困惑して、次女は顔を覗き込んで呼びかける。
 キアラは弾くように顔を上げて、ふっと微笑む。

「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたの。
 ……ねぇ、もし私が人生二周目だって言ったら、あなたはどうするの? これから起こる未来を知っているって言ったら」

 そして、それとなくジュリアに聞いてみた。仮に回帰を告白したとして、その際の他人(ひと)の反応が気になったのだ。
 あるいは、レオナルドの代わりに聞いたのかもしれない。

「んんん〜、そうですねぇ〜〜」

 ジュリアは少しだけ思案してから、

「未来のことが分かるのなら、今みたいに一緒に組んで商売をしますね! そして、いっぱいいっぱいお金を稼いで、二人で皇族を超えるような大富豪になりましょうー!!」

 明るく元気に答える。
 僅かの沈黙のあと、

「そうよねっ! それが一番いいわよね!」

 キアラもジュリアに釣られて相好を崩した。今は、彼女の底抜けた明るさと前向きさに救われる気がした。

「やっぱりお金儲けですよ、キアラ様!」

「その通りね」

 キアラはなんとなく安堵感を覚えた。
 七回目の自分はこれでいい。金銭で繋がった、こういう後腐れない関係がいい。気が楽だ。

 レオナルドとも、こういう割り切った関係のはずだ。
 早く目的を達成して、あとは地方の領地に引っ越してのんびり過ごそう。

 もう、ダミアーノの時みたいに、無駄な感情に振り回されたくないわ。



 せめてレオナルドが不在の間は、自分がしっかりして務めを果たそうと決めたとき、それはやって来た。

 魔獣が、ついに皇都に出現したのである。

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