もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
◇
その、うねるような騒ぎは、街の中心部にあるキアラの商会の本店にも届いた。
元より賑やかな皇都の街だが、外の喧騒いつもと違って緊迫感あふれるものがある。何か異変が起きていることは明らかだ。
「どうしたんでしょう?」と、ジュリアが首を傾げながら窓に近付く。
「っ……!?」
その時、キアラの頭に、つんと針を突き刺したような感覚が襲ってきた。途端に、腐った魚みたいな悪臭が漂って来る。
(これは、人口の魔女のマナだわ。それも、物凄い量……)
嫌な匂いは、どんどん強くなっていく。鼻が曲がるような強烈な異臭に、他の者たちは気付いていないようだ。
「伯爵令嬢! 逃げてくださいっ!」
突然ドンと勢いよく扉が開いて、レオナルドがつけたキアラの護衛が血相を変えて飛び込んで来た。
「どうしたの?」
「まっ、魔獣が出現しました!」
「ええぇっ!!」
ジュリアが大声を上げる。
対してキアラは冷静で、「そう」とだけ言って立ち上がった。
「な、なんでそんなに冷静なんですか?」とジュリア。
「先日の倉庫の被害に立ち会ったでしょう? だから可能性としてはあると思っていたわ」
「そうですけどぉ〜〜。キアラ様は魔獣が怖くないんですか?」
「怖いわよ。だから、私たちも早く避難しましょう」
キアラは魔女のマナという強大な力を持ってはいるものの、それで「戦闘」という行為をしたことはなかった。だから、怖い。獣が怖いのは確かだ。
だが、もしやむを得ず魔法を使ってしまい周囲にこの力が露見して、レオナルドに迷惑をかけることになるほうがもっと恐怖だった。
それは、今回も敗北を意味するから。