もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜





 その、うねるような騒ぎは、街の中心部にあるキアラの商会の本店にも届いた。
 元より賑やかな皇都の街だが、外の喧騒いつもと違って緊迫感あふれるものがある。何か異変が起きていることは明らかだ。

「どうしたんでしょう?」と、ジュリアが首を傾げながら窓に近付く。

「っ……!?」

 その時、キアラの頭に、つんと針を突き刺したような感覚が襲ってきた。途端に、腐った魚みたいな悪臭が漂って来る。

(これは、人口の魔女のマナだわ。それも、物凄い量……)

 嫌な匂いは、どんどん強くなっていく。鼻が曲がるような強烈な異臭に、他の者たちは気付いていないようだ。

「伯爵令嬢! 逃げてくださいっ!」

 突然ドンと勢いよく扉が開いて、レオナルドがつけたキアラの護衛が血相を変えて飛び込んで来た。

「どうしたの?」

「まっ、魔獣が出現しました!」

「ええぇっ!!」

 ジュリアが大声を上げる。
 対してキアラは冷静で、「そう」とだけ言って立ち上がった。

「な、なんでそんなに冷静なんですか?」とジュリア。

「先日の倉庫の被害に立ち会ったでしょう? だから可能性としてはあると思っていたわ」

「そうですけどぉ〜〜。キアラ様は魔獣が怖くないんですか?」

「怖いわよ。だから、私たちも早く避難しましょう」

 キアラは魔女のマナという強大な力を持ってはいるものの、それで「戦闘」という行為をしたことはなかった。だから、怖い。獣が怖いのは確かだ。

 だが、もしやむを得ず魔法を使ってしまい周囲にこの力が露見して、レオナルドに迷惑をかけることになるほうがもっと恐怖だった。
 それは、今回も敗北(・・)を意味するから。

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