もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「きゃあぁぁっ!!」
「ま、魔獣だっ!」
にわかに、前方で人々の悲鳴が一層大きくなった。
それが合図かのように、ゴールに向かって一直線だった流れが、氾濫したようにぶわっと勢いよく横へ広がって行く。人の波が慌ただしくぶつかり合った。
キアラたちは一旦足を止めたが、人の流れに逆らえず散り散りになってしまった。
「キアラ様!」
護衛もジュリアも必死で主の姿を探すが、酷く混乱状態に陥った現場では身動きさえ取れなかった。
突如、皇后と同じマナの匂いをキアラが感じた時だった。
「グルルルル……!」
魔獣だった。
それは狼のような見た目で、牙だけが異様に発達していた。涎を垂らして、腹を空かせたようにグルグルと鳴いている。
あれにひと突きされたら、ひとたまりもない。
「!」
ふと、キアラと魔獣の目が合う。
張り詰めた空気が走った。
逃げ惑う人々の叫び声も遠くへ行ってしまうような、長い瞬間だった。
その僅かな時に、彼女は気付いた。